月は、なぜ地球に落ちてこないのか?ロケットはなぜ宇宙に行けるのか?それらの答えは、天才ニュートンの「万有引力の法則」にあります。今回は「万有引力の法則」について、小学生にも分かるように、やさしくお話します。
「万有引力」は誰でも聞いたことのある言葉ですよね。
そうです、有名なアイザック・ニュートンが、リンゴが木から落ちたのを見て、発見したと言われる「万有引力」です。
よく勘違いされるのが、ニュートンはリンゴが落ちるのを見て、「重力を発見した」。
だからすごい人なのだと。でも、そうではないのです。
リンゴが地面に落ちるのは、地球に「重力」があるからだ、ということは、ニュートンが登場する前から知られていました。
では、ニュートンが発見した「万有引力」とは、何がそんなにすごい発見なのでしょうか?
※ここでは、数式は出てきません。また難しい言葉にはルビがふってあります。
※ちなみに、ニュートンがリンゴが落ちるのを見て、「万有引力」を思いついた、というのは事実かどうかは、はっきりしないそうです。
「天動説」から「地動説」へ

ニュートンの話の前に、まず昔の科学者は宇宙をどう考えていたのかを簡単にご紹介していきます。
それを知ることで、ニュートンの「すごさ」がよりわかりますよ。
「天動説」とは?
天動説とは、「宇宙の中心は地球であり、太陽もその他の惑星も、すべて地球の周りをまわっている」という考え方です。
天動説を考えたのが、2世紀ころのプトレマイオスという科学者です。
今の人たちなら「そんなバカな」となりますが、この天動説は、その後1400年もの間、人々の間で信じられていたのです。
それはなぜでしょうか?
それは天動説でも、日常生活に何の不思議もないからです。
今では、地球は太陽の周りをものすごいスピードで公転していることは誰でも知っていますね。
(ちなみに公転のスピードは、時速1600キロほどです、音速よりも速いのです)
でもどうでしょう? だからといって地球の外に放り出されることはありませんね。
また、朝、太陽が出てきて、どんどん空の上にあがり、沈みます。
どうでしょう? これをいつも見ている人たちが、「太陽は地球の周りをまわっている」と考えても、何の不思議もないのです。
ですから、1400年もの長い間、人々は「地動説」を信じ続けたのです。
「天動説」から「地動説へ」
そして、16世紀。「いや地球が太陽の周りをまわっているのだ」という科学者が現れました。
この人も有名ですね。ガリレオ・ガリレイです。
ガリレオが登場する前にも、「地動説」と考えた科学者はいました。コペルニクスです。
ですが、コペルニクスは地球が太陽の周りをまわっているのだという「証拠」を見つけることができませんでした。
その「証拠」を初めて見つけたのがガリレオでした。彼は当時には発明されていた望遠鏡で、月を見たのです。
ガリレオは驚きました。
月の表面がデコボコしていたからです。
それまでは、宇宙にある星は「特別なもの」で、完全な球体だと思われていたからです。電球のように「つるっとしてキレイな球体」のように。
ですが、実際に見た月は、地球と同じようにデコボコしている、つまり「山」や「谷」がありました。
ガリレオは思いました、「月は特別な世界ではなく、地球と同じなのでは?」と。
このことが、「地動説」を信じるきっかけになりました。
次に、ガリレオは木星を観察しました。
そして、木星のまわりに小さな「点」がいくつかあるのを見つけました。
「点」は木星の衛星です。残念ながらこのころの望遠鏡では、木星の衛星は点にしか見えなかったのでしょう。
ちなみに、現在では木星の衛星は79個見つかっています。
その「点」を時間をかけて観察してみると「点」の数が減ることに気づきました。
ガリレオは不思議に思いました。
ですがこのことは、「点」が木星のまわりをまわっていて、時間によって木星にかくれて見えなくなってしまうのだ、と考えると理解できます。
この時、ガリレオは考えました。「木星をまわる星があるのなら、地球が太陽のまわりをまわっていても、何の不思議もない」
くわしいことは、ここではお話しませんが、これをきっかけに、「天動説」ではありえない星の動きなどを、発見していきました。
「地動説」が正しいのだという「証拠」次々に見つけていったのです。
しかし、ガリレイでも、人々に「地動説」を信じてもらうことはできませんでした。
ガリレオは、地球や他の惑星が、どのようにして太陽の周りをまわっているのか、その惑星の「動き」をうまく説明することができなかったのです。
ケプラーの登場

その「惑星の動き」を説明したのが、ケプラーでした。
くわしく話すと難しいので、ごく簡単にお話します。
ケプラーとガリレオの違い。それは惑星が太陽をまわるときの「軌道」の考え方でした。
「軌道」とは、上の写真の白い線です。惑星が太陽の周りをまわる「道」と考えてください。

赤い丸は「太陽」、青い丸は「地球」です。ケプラーは太陽をまわる地球の「軌道」を楕円形だと考えました。

ガリレオは「軌道」は完全でキレイな「円」だと考えていました。
そのため、惑星の運動をうまく説明することが出来なかったのです。宇宙は「完全で美しい」ものだという考え方から抜け出すことが出来なかったのです
これは大変な発見でした。「軌道」が楕円形だとわかったケプラ―は、惑星の運動を予想して、それを「数式」にあてはめて、計算することで、惑星の運動を説明することに成功したのです。
「数式」。これが物理学をキライになる原因だったりしますよね。私は高校生のころ物理学がキライでした。数式を計算することばかりだったからです。
ですから、ここではケプラーの「数式」は紹介しません。「数式」を使わなくとも、科学者の「考え方」、または科学者が何を発見したかはわかるからです。
ですが、「数式」を使うことで、自分の考えたことを「証明」する必要が科学者にはあります。簡単に言えば「数字はウソはつかないから」です。だから誰が見ても信用できる「証明」になるのです。
話を戻しますね。
難しい話は抜きにして、ケプラーは惑星の動きを正確に説明することに成功し、これをもって、1400年以上続いた「天動説」は終わりをむかえました。
彼は、惑星の運動のことで、3つの法則(法則=「決まり事」と思ってください)を発見します。
ここでは、ニュートンに関係する、第2の法則だけご紹介します。簡単に言いますと、
「太陽に近い惑星ほど、太陽の周りを速くまわっている」というものです。
なぜ太陽に近ければ公転(=太陽の周りをまわること)するスピードが上がるのでしょうか?
ケプラーは、太陽と惑星の間に、何かの「力」が働いているからではないかと考えました。
それは磁石が金属(鉄など)を引きつける力のようなものではないかと考えましたが、その「力」の正体をつかむことはできませんでした。
その力の「正体」を突き止めたのが、ニュートンだったのです。
ニュートンの登場

ここからは、ニュートンが発見したことは何か?についてお話していきます。
その正体は「引力」
初めにお話したように、リンゴが木から落ちる理由は、地球に重力があるからだ、ということはずいぶんと前からわかっていたことでした。
ですから、ニュートンがリンゴが落ちるの見ても、何も驚くこともありませんでした。その理由はわかっていたからです。
では彼は、リンゴが落ちるのを見て、何を考えたのでしょうか?
すべての物体は、他の物体を引きつける「力」を持っているのではないか。そして、その「力」は地球の上だけではなく、宇宙にも当てはまるのではないか。
これがニュートンの大発見なのです。
リンゴが地球に落ちる理由も、惑星が太陽の周りをまわる理由もまったく同じなのでないかと考えたのです。
地球とリンゴはお互いを引っぱり合っている。太陽と地球も引っぱり合ってるし、地球と月も同じである。
これが宇宙で起こっている運動の「正体」だったのです。
前にもお話したように、ケプラーも、「太陽に近い惑星ほど速くまわっている」ということは、分かっていましたね。
でも、それが何の力によるものなのか、ということはわかりませんでした。
地球の上で起こることと、宇宙で起こることが同じだ、という考え方ができなかったからです。
どうしても、「宇宙では、地球上とは違う特別な力が働いているのではないか」という考え方から抜け出すことが出来なかったのです。
ですがニュートンは、宇宙は特別な場所ではなく、地球で起こることが、宇宙でも起きているだけなのだと考えたのです。
「天才」と言われている科学者たちが見つけることが出来なかった、力の「正体」を、ニュートンがついに見つけたのです。
ニュートンは発見したのは、次のことです。
「2つの物体の間には、引き合う力がある。そして、物体の質量が大きければ大きいほど、その力は大きくなり、2つの物体の距離が近ければ近いほど、その力は大きくなる。そして、このことは、すべての物体が持つ力である」
ケプラーの「太陽に近い惑星が、より速くまわる」理由は、距離が近ければ近いほど、その引力も大きくなるからなのです。
コラム 「質量とは?」 ※分かる人は飛ばしてください
「重さ」と「質量」は違います。
「重さ」は「場所」によって変わってしまします。例えば、地球で計ったら体重60㎏の人は、月で計ると10㎏になります。月の重力は、地球の6分の1だからです。
「質量」は場所によって変わったりしません。もともと物体がもっている量であると、考えていいと思います。難しい言い方をすると、「物体の動かしにくさ」であるといいますが。
これが「万有引力」の法則です。「万有」とは「すべての物に有る」ということです。
リンゴと地球で言えば、リンゴは地球に引っぱられいると同時に、リンゴも地球を引っぱっているのです。
ですが、リンゴの質量は、地球に比べると、とてつもなく小さいので、リンゴの方が、地球に引っぱられてしまいます。
だからリンゴは地球に落ちるのです。
このことは、もちろん地球と月、太陽と地球についても言えます。
月と地球はお互いに「引っぱり合って」います。
ですが、月の質量は地球に比べて小さいので、月は地球に「引っぱられて」しまいます。
また、あなたが友だちと一緒にいたなら、あなたと友だちは「引き合っています」。
だからといって、くっついたりしないですよね。それは人間の質量が、とてつもなく小さいため、2人の間に働く「引力」も、とてつもなく小さいからです。
ここで、問題が出てきます。月が地球に引っぱられているなら
「どうして月は地球に落ちてこないのでしょうか?」
「どうして月は地球の周りをすなおにまわっているのでしょうか?」
これには、ニュートンが発見した「万有引力」の法則と、物体の運動を説明した3つの法則によって、答えることができます。
なぜ月は地球に落ちてこないのか?
地球と月は、おたがいに引っ張り合っています。
ですが地球の質量の方が大きいので、月は地球に引っぱられます。

ではなぜ、月は地球に落ちてこないのでしょうか?
実は月は、地球に落ち続けているのです。
一体どういうことなのでしょう?
このことは、「万有引力の法則」と、第1の法則によって、説明することができます。
第1の法則とは簡単に言えばこういうことです。
「何の力も加えられなければ、止まっているものは、止まったまま、動いているものは、ずっと同じ方向に、おなじ速さで動き続ける」
これを「慣性の法則」と言います。
そして、この「止まっていよう」「動いていよう」とする力を「慣性力」と言います。
赤い矢印は、地球の引力。黒い矢印は月が地球から離れていこうとする月の運動です。
宇宙では、月の運動を「止めよう」とする力はありません。ですから、慣性力によって、地球から離れようとし続けます。

月は地球に引っ張られて、地球に落ち続けてはいますが(赤い矢印)同時に、地球から離れようと動き続けています(黒い矢印)
この2つの「力」が、ちょうどつりあっているので、地球に落ちることなく、ムラサキの矢印の方向に動きます。
このことを繰り返して、月は「きちんと」地球の周りをまわることになるのです。
また、もし「離れろうとする力」のほうが強かったら、月は地球から離れ、宇宙のかなたへ飛んで行ってしまうでしょう。
次は「第2の法則」のお話しです。この法則は、物体の未来が「予測」できる法則です。
物体の「未来」がわかる?
第2の法則はわかりにくいので、ごく簡単にお話しますね。
第2の法則は以下の通りです。
「物体に加えられる力が大きければ大きいほど、その物体の加速度は、大きくなる」
数式は使わない、と言いましたが、この数式は小学生にも理解できるものなので、ご紹介します。
F=m×a
F=物体に加わる力 m=物体の質量 a=加速度 となります。
※「加速度」とは、どんどんスピードが速くなっていくこと、と考えてください。
これ、そんなに難しいことではありません。例えば、こういうことです。
時速50㎞で走っている車があるとします。50㎞で走り続けたらなら、加速しないので「加速度」は0です。この車の質量は900㎏としましょう。
上の式に当てはめてみましょう。m=質量なので900、a=加速度なので、0 F=900×0 で、F=0になります。
スピードが変わらない(加速度がない)ので、加えられた力は「0」となります。
次に、止まっている車に力を加えて、加速させるとしましょう。その力F(加えられた力)が900としましょう。
力が加えられたので、今度は加速度は0ではないので、どんどん加速していきます。
では式にあてはめます。
900=900×a となりますね。a(加速度)は「1」となります。
加速度1の車は、1秒ごとに速度が1m/sずつ増えていきます。(m/sとは秒速1mのことです)
加速度10なら1秒ごとに速度が10m/sずつ増えていく、ということです。
では、これが一体何なのか、ということですが、深く説明するとややこしくなるので、こう考えてください。
「物体の運動を計算することで、その物体がどのような運動をするのか正確にわかる」
その物体が、2時間後・10時間後に「どこにいるのか」が正確にわかる、ということです。
例では「車」でしたが、もちろんこれは、地球などの惑星にもあてはまります。
つまり、この法則によって、惑星などの運動が正確に「予測」出来るようになったのです。
これが、物体の「未来」がわかる、ということなのです。
次は最後の第3の法則についてお話します。
この法則があるからロケットは宇宙に行けるのですよ。
ロケットが宇宙に行けるのはなぜ?
第3の法則を簡単に言うと次の通りです。
「物を押したら、同じ大きさの力で、反対方向に押し返される」
あなたがカベを、思いっ切り押したとしましょう。
その時、後ろに押し返されますね。これを「作用・反作用の法則」と言います。
ロケットが、宇宙に向かって飛んでいくのも、この「作用・反作用の法則」があるからです。
ロケットは、ジェット噴射によって、ものすごい「力」で地球を押します。
するとこの「力」と同じ大きさの「力」が反対にロケットを押します。
そして、ロケットは宇宙へと向けて、空に上がっていくのです。
例えば、こんなことも言えます。みなさんは暗いとき、懐中電灯を前に向けますね。

この時、懐中電灯からは、「光のエネルギー」が出ています。エネルギーとは「力」です。前に向けて「力」を出しています。
「作用・反作用の法則」によると、反対方向にも同じだけの「力」が働くので、この時、懐中電灯を持っている手が、押されているはずです。
でも懐中電灯を使っていて、後ろに手が押されたことはありませんよね。
これは、その「力」があまりにも小さいために、「感じない」だけで、手はちゃんと後ろに「押されて」いるのです。
おわりに
以上、ニュートンの大発見について、お話してきました。
もう一度言いますが、「万有引力」を発見したから、ニュートンはすごいのではありません。
地球で起こっていることは、宇宙でも起こっているのだと考えたところが、すごい「発想」であり、「大発見」だったのです。
それまでは、宇宙とは「神様が作った特別な場所」でした。
ですが、ニュートンは、そんな「特別な場所」はないと考えたのです。
そして、この考え方は、その後の宇宙をガラリと変えることになりました。
1人の天才が、それまでの「常識」をひっくり返したのです。
先にも言いましたが、ぼくは高校の時、物理学がキライでした。ひたすら、数式とにらめっこの授業だったからです。
でも、物理学とは、この世の中の「仕組み」を解き明かす学問です。決して数式を解くだけの学問ではありません。
それがわかった時、ぼくは物理学が好きになり、それからたくさんの物理の本を読みました。もちろん数式があまり書かれていない本を。
今回のお話を読んで、少しでも「物理学」がおもしろいと思っていただけたら、幸いです。
おしまい
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