今回はアインシュタインの「特殊相対性理論」の中でも、「時間の不思議」について中学生にも分かるように解説します。また、私たちの生活とは関係ないと思われがちな「相対性理論」も、実は私たちの生活に非常に役立っている、ということもお話します。
アインシュタインはこう考えました。
「時間」は絶対的ものではない。観測する「立場」によって変化するものだ。
さて、これはどういうことなのでしょうか?今回は「時間」は変化する、というお話です。
ここでは詳しくお話しませんが、今回の話は「光の速さは絶対的に変わらない」ということにもとづいています。これを「光速不変の原理」と言います。
※「光の速さ」について詳しく知りたい方はこちらへ
動くものの時間は「ゆっくり流れる」?
私たちの日常では、時間の進み方はどこでも同じですね。日本でも、アメリカでも、月の上でも1秒は1秒で変わることはありません。
ですが、アインシュタインは「時間は誰にとっても共通なものではなく、立場によって変わるのだ」というのです。
ここからは、アインシュタインの考えた「時間の不思議」についてお話します。
ロケットの中に「光時計」があったら?
ロケットの中に、図のような「光時計」があるとしましょう。鏡と鏡の間は15万㎞です。
上から発射された光は、下の鏡に反射されて上の鏡に返ります。
光の速度は秒速30万㎞なので、鏡を往復するのにちょうど1秒かかります。(こんな大きなロケットは作れませんけどね)
光が往復することで、1秒がはかれる「光時計」です。
今、この「光時計」を積んでいるロケットも、外にいるロケットも止まっています。
鏡のあるロケットの中にいる人から見ても、外で止まっているロケットから見ても、光はまっすぐ動いて1秒で鏡を往復します。
ではこのロケットが、秒速27万㎞(光速の90%の速度)で動いたらどうなるでしょうか?
動いているロケットの中にいる人には、やっぱり光はまっすぐ往復するように見えますが、
外で静止しているロケットからは上の図のように見えます。
上のから出た光が下の鏡に届くころには、下の鏡は動いているので、光が斜めに動きます。その光が上に反射するとき、また鏡は動いているので、斜めに動いて上の鏡にもどるように見えます。
光は、まっすぐ往復するよりも、長い距離をかけて往復することになります。
光が鏡を往復する時間は、まっ直ぐ進む場合は1秒でした。
この場合は、光の進む距離が長くなるので、往復する時間は1秒より長くなります。
つまり、止まっている物(人)から見ると、動いている物(人)の時間は「ゆっくり流れる」のです。
こう言い替えることもできます。静止してるロケットでは1秒経っていても、動いているロケットの中では1秒経っていません。
0.何秒しか経っていない、ということになるのです。
動いているロケットの「光時計」は、静止しているロケットの時計よりも「遅れる」のです。
もっと長い時間で考えてみましょう。
静止しているロケットの中では、10年経っているのに、動いているロケットの中では1年しか経っていない、ということになります。
このように「時間」も「相対的に」変わるのです。
「時間」とは常に一定ではなく、動いているのか、静止しているのか、その立場によって変化するのです。
じゃあ逆に、動いているロケットから見ると、静止しているロケットの時間の進み方は速くなるのかな?
そう思いますよね。でも実はそうはならないのです。この「時間の遅れ」はお互い様なのです。
止まっている方の時間もゆっくり流れる?
では、今度は「光時計」を静止しているロケットにのせて、秒速27万㎞で動いているロケットから見たとしましょう。
ここで、注意しなければいけないことは、動いているロケットの中の人にとっては、「自分は静止していて、静止しているはずのロケットが動いている」と考えても同じだということです。
どういうこと?と思われるでしょう。
例えば、あなたがバスに乗っているとします。バスは動いて目的地に到着します。当たり前ですね。
でも、こう考えても結果は同じなんです。「バスは止まっていて、外の世界が動く、それでもバスは目的地には到着できる」
つまり、「バスが動いても」「外の世界が動いても」、相対的には同じですよ、ということなんです。
ですから、動いているロケットから、静止しているロケットを見ても、全く同じことが起きます。
鏡が動いて、光は斜めに動くのです。
動くロケットから、静止しているロケットを見ても、やっぱり1秒が1秒ちょっとになり、「時間がゆっくり流れる」のです。
これは、変ですよね。結局両方の時間がゆっくりになってしまうのですから。
ですが、これを「変」」だとは考えず、「どちらも正しいのだ」とするのが「相対性理論」なのです。
この世界に「絶対的な時間」は存在しない。時間の流れは、それぞれの立場で変わる「相対的な」ものだ。
これが、「特殊相対性理論」の中でアインシュタインが考えた「時間」です。
この「時間」、「一般相対性理論」では、ちょっと違う考え方になるのですが、それはまた別の話で。
「相対性理論」って、僕たちの生活とはかけ離れている世界のようだなあ。
そう思うのも無理はありませんね。でも、この「時間」の考え方は、私たちの生活にも役立っているのです。
次は、そんな話です。
日常で役立つ「相対性理論」
今は便利な世の中になりましたね。目的地の場所がわからくても、「スマホ」や「カーナビ」で、道案内をしてくれますからね。
これは、「自分の位置が正確にわかっている」からなんですが、それを可能にしているのが「GPS」です。
この「GPS」の仕組みに、「相対性理論の時間の遅れ」の理論が利用されているのです。
GPSの仕組みとは?
GPSとは、人工衛星から発信される電波によって、現在位置を知ることができる仕組みです。
この人工衛星が約30個も地球の周りを周っているのです。
それぞれの衛星にが「原子時計」という時計がのっています。この時計は、10万年に1秒以下しか狂わないほどの正確な時計です。
衛星から電波が発信された「時刻①」と、電波が受信された「時刻②」との差から、電波が届く時間が分かります。
距離の求め方は、「速さ×時間」でしたね。
30万㎞/秒×(時刻②ー時刻①)=電波が進んだ距離
が分かります。このように衛星からの「距離」が正確に分かると、「現在地」が分かる、というのが「GPSの仕組み」です。
このように「GPS」は優れものなのですが、実は1つ問題があります。
それが、相対性理論の「時間の遅れ」なのです。
衛星では地球より「時間がゆっくり流れる」?
相対性理論によると、「動いている物の時間はゆっくり流れる」ということでした。
先ほど言ったように、秒速27万㎞で動くロケットの時間は、ゆっくりになり、時間が遅れましたね。
では、GPS衛星の時間はどれくらい違うのでしょうか?
衛星は、地球から約2万㎞離れたところで、12時間かけて地球を周っています。
その速さは、秒速4㎞ほどです。秒速27万㎞から比べると、非常に遅いのですが、それでも動いているので時間はゆっくり流れるので、
時間に「ズレ」が生じます。
衛星の中では、地上よりも1日で約7.1/1,000,000秒(100万分の7.1秒)だけ「ズレ」(遅れ)るのです。
つまり、上の図の「時刻①」が地上の時刻とズレてしまうのです。
これでは、正確な距離が計算できません。
たったそれだけの遅れが何か問題なの?
感覚的に気づくことができないほど短い時間ですが、問題なのは衛星の距離と電波の速さです。
面倒な計算は省略して、結果だけ。
衛星は、地上から高度2万㎞のところにいます。
また、電波は光速と同じ速さである「秒速30万㎞」というものすごい速さです。
ですから、たった「7.1/100万秒」の遅れでも、距離の計算が、2.1㎞もずれてしまうのです。
これでは、正確な位置が分からなくなってしまいますね。
GPSは、このように「ズレる」ことを前提として、それをうまく修正して電波を送っています。
「相対性理論」がなくては、GPSは役に立たないものになってしまうのです。
へえ~知らなかった。相対性理論って生活に役立ってるんだね。
一見私たちの生活には関係無さそうな「相対性理論」ですが、その理論がなければ、作れないものが結構あるのです。
おしまい
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