動物たちは、自分の子どもを産み、育てることで、自分の子孫を残します。ですが「自然」は厳しい世界。すべての動物が思った通りに子孫を残すことはできません。そこで「カッコウ」は自分で子どもを育てることを、「ハチ」は子どもを産むことを「あきらめた」のです。今回は「カッコウ」と「ハチ」が決断した「子孫を残すための方法」について分かりやすく解説します。
カッコウの生き残りをかけた「頭脳戦」
カッコウは大切な卵を、自分で育てることをあきらめました。他の鳥に温めさせて、かえったヒナを育ててもらうことにしたのです。
これを「托卵」といいます。「卵」を「託す」ということです。
ここからは、カッコウの「生き残り」をかけた「托卵」についてお話していきます。
生き残るためなら何だってやるぜ!
卵を託された方の鳥を「仮親」といいます。
カッコウが卵を託す「仮親」の種類は、オナガやモズ、ウグイスなど、30種類にもなります。
カッコウは、卵を産みそうな鳥に目をつけると、その鳥が卵を産み始めるのを待ちます。
カッコウによって「仮親」にされた鳥は、1日に1つの卵を産みます。そして卵の数が1~3つになったら、「托卵」の絶好のチャンス。
仮親が、エサを探しに巣を離れたすきをねらって、自分の卵を巣に入れます。そして、数が合うように、仮親の卵を1つ捨ててしまいます。
仮親はそのことに気づくことなく、カッコウの卵と、自分の産んだ卵を温めます。
カッコウのヒナは、仮親のヒナより早く生まれます。するとカッコウのヒナは何をするか?
カッコウのヒナは生まれるとすぐに、仮親の卵を巣から捨ててしまうのです。
こうして、カッコウのヒナは、成長するまでの間、仮親のお世話を独り占めすることになるのです。
カッコウの「だまし」のテクニック
仮親はどうして、「他人」の卵を温め、ヒナを育ててしまうのでしょうか?
そこには、仮親をうまくだますテクニックがあるのです。
① 卵の色や大きさでだます
カッコウは、仮親の卵と見た目が同じような卵を産みます。仮親の卵に模様があれば、その模様がついた卵を、仮親の卵が青色であれば青い卵を産みます。
つまり、カッコウは仮親の卵に似せた卵の産むことができるのです。
また、仮親の卵より、少し大きな卵を産みます。鳥は大きな卵の方を大切に育てるという「習性」があるからです。
② ヒナの「口」や「鳴き声」でだます
卵は見分けがつかないとしても、さすがに生まれてきたヒナが、自分の子どもでないことは気づくのでは?
と思いますよね。何せ鳥の種類が違うのですから。
じつは鳥は、自分の子どもを「姿や形」で、区別しているのではありません。
エサをねだる口の形や鳴き声で区別しているのです。そこで、カッコウのヒナは、
- 仮親のヒナと同じような声でエサをねだる
- 口の中の色をそっくりにする
これで、仮親をだましているのです。
このようにして、仮親をうまくだますことで、カッコウは生き残っていくのです。
ですが、すべての仮親がだまされるわけではありません。だまされてばかりでは、自分の子どもが減ってしまいます。
ウグイスは、カッコウの卵であることに気づいて、巣を捨てたりすることもあります。
また、自分の子どもでないことに気づいて、仲間とともに巣から追い出す鳥もいます。
仮親だって負けてはいられないのです。
では、なぜカッコウは自分で子どもを育てないのでしょうか?
体温がころころ変わるから?
カッコウが「托卵」する理由は、じつはよくわかっていません。
カッコウの体温は一定ではなく、その日によって変わってしまいます。
それではうまく卵をかえすことができないので、体温が変わることが少ない、他の鳥に託したほうが、安定して子孫を残せると考えたのではないか。
というのが、托卵する理由ではないかといわれています。
「托卵」はカッコウが生き残るための大事な「作戦」です。ですが仮親も子孫を残すために、その「作戦」を見破らなければいけません。
自然では、このような生き残りをかけた「頭脳戦」が行われているのです。
ミツバチの「悲しい決断」とは?
ここからは、自分の子孫を残すために、ミツバチの「働きバチ」が何を決断したのか、ということについてお話していきます。
「働きバチ」の一生とは?
人間の世界では、男の人が「働きバチ」になることが多いですが、ミツバチの「働きバチ」は「メス」です。
子どもを産み続ける「女王バチ」、「オスバチ」、「働きバチのメスバチ」この3種類が、ミツバチの「社会」を作っています。
同じ「メス」でも、「女王バチ」になるのか「働きバチ」になるのかは、食べるエサによって決まります。
くわしいことはここではお話しませんが、「女王バチ」と違うエサを食べたメスバチは、卵を産む能力がなくなってしまい、「ミツバチの社会」のために働くだけの「働きバチ」になるのです。
働きバチは、成虫になってからの10日間は、幼虫のお世話をします。
次の10日間では、巣を作ったり、修理したりします。そして、蜜や花粉を取るために、外へと出かけます。
働きバチは、1カ月ほどでその一生を終えます。
どの生物でも、自分の子孫を残すためにいろいろと行動します。
先ほどの「カッコウ」のように子孫を残すことは、生物にとって大切な事だからです。
ですが、「働きバチ」は自分の子孫を残すことができません。これはすごく「変なこと」なのです。
なぜ、働きバチは、自分の子孫を残すことなく、一生働き続けるのでしょうか?
じつは、このことこそが、子孫を残すために必要な事だったのです。
子孫を残すための「決断」とは?
このような働きバチの行動は、ミツバチの「社会」を守り、仲間を生かすために、自分が犠牲になっているのだ、とされていました。
じつはそうではなかったのです。ミツバチも自分の子孫=遺伝子(ここからは、「子孫」を「遺伝子」と言いかえます。)を残そうと「必死の決断」をしていたのです。
ここで大切なことは「生物はできるだけ多く、自分の遺伝子を残したいと思う」ということです。
※ここからの話は少しややこしくなりますが、できるだけ分かりやすくお話したいと思います。
本当の数は違うのですが、ここでは分かりやすく、メス(女王バチ)は2本の染色体を、オスはその半分の1本の染色体を持っているとしましょう。
そして、この染色体の組み合わせで、「メス」か「オス」かが決まります。
自分と、自分の「妹」とでは、「遺伝子が100%同じになる」か「50%同じになるか」どちらかになります。
では結局、自分と妹の遺伝子はどれだけ同じになるのでしょうか?
かんたんな計算をしてみましょう。
(100%+50%)÷2=75%
自分と妹の遺伝子が同じになるのは75%ということになります。
では、自分の子どもを作るとどうなるでしょうか?
自分でオスバチと子どもを作った場合、上の図のように、自分の染色体の「緑」「赤」のどちらか1つしか子どもに受け継がれません。
つまり、50%しか自分の遺伝子が残らないのです。
いや、子どもがオスだったら100%でしょ。この方が、遺伝子がたくさん残るのでは?
そうですね。上の図ではオスを産めば100%遺伝子が同じになりますね。ですが、その後のことを考えると、そううまくは行かないのです。
ハチの場合、「オス」の遺伝子は、「子どものオス」にまったく受け継がれません。
「メス」が生まれる確率が50%、「オス」が生まれる確率が50%とすると、自分の遺伝子が、次の子ども(つまり「孫」)に受け継がれるのは、やはり50%でしかないのです。
もし、孫がオスだったら、自分の遺伝子はもう残りません。
ここでやめておきますが、次の「ひ孫」までいくと、さらに自分の遺伝子が減ってしまうかもしれません。
つまり、ハチは自分で子孫を産むことより、女王バチに自分の「妹たち」を産んでもらう方が、自分の遺伝子をより多く残せることを「ミツバチ」は知っているのですね。
ですから、自分では子どもを産まずに、働きバチとなり「妹たち」をお世話をする、という「決断」をしたのです。
この決断が「悲しい」ものかは分かりませんが。
まとめ
以上、お話してきたように、生物にとって自分の子孫(遺伝子)を残すことは、とても大事なことです。
そのために「カッコウ」のように「托卵」という行動をしたり、「ミツバチ」のように、自分では子どもを産まないことを選んだり、と不思議なこともするのです。
今は、少子化が問題になっていますね。自分の子孫(遺伝子)を残そうとしないのは、人間ぐらいなものです。
たしかに、これには「社会的な」問題にも原因はありますが、他の生物からしてみると、なんとも不思議なことなのではないでしょうか?
おしまい
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